スキル可視化で拓くイノベーション、Skillnote創業者・山川隆史氏の経営哲学

Startup Vision Interview #2

スキル可視化で拓くイノベーション、Skillnote創業者・山川隆史氏の経営哲学

スキル可視化で拓くイノベーション、Skillnote創業者・山川隆史氏の経営哲学

STORIUMが応援するスタートアップの魅力に光を当てるストーリー。今回は、Skillnoteの山川氏にインタビューしました。

世界的に見て、日本が強みを持つ産業の一つは製造業だ。日本が急速な経済成長を遂げた「高度経済成長期」に比べれば、グローバル競争の激化や技術革新への対応の遅れなどから競争力が低下しているものの、それでも依然として高い技術力や現場力を活かし、世界中の社会基盤を支えているのは誇らしいことだ。

さまざまなスタートアップがある中で、テクノロジーを使って、製造業をもう一つの上のレベルへ引き上げようとするスタートアップが生まれている。Skillnoteは、現場で働く人々のスキルや資格をもれなく効率的に管理できるスキルマネジメントシステムを開発している。

インタビュイープロフィール

山川 隆史
山川 隆史
代表取締役
株式会社Skillnote

起業の原点は、製造業への深い想いから

山川隆史氏がSkillnoteを創業したのは、「製造業の未来を根本から変革したい」という強い信念に基づくものだ。2006年にSkillnoteの前身となる製造業の人材育成コンサルティングを提供する会社としてイノービアを設立。その後、2016年にSkillnoteを創業した。

大学4年生の就職活動中、山川氏は既に明確な起業への夢を描いていた。「自分が一生何をやりたいかを考えたとき、自分で事業を興したいと思っていました」と当時を振り返る。だが、事業を興すにも市場を知ることが重要と考え、理工学部出身の山川氏は信越化学工業に入社した。

信越化学工業での技術営業の経験、特に半導体業界との関わりは、山川氏の起業家精神を大きく育んだ。安定志向の人が多い中、山川氏は入社から10年以内に起業するという志を胸に、仕事を通じて重要なインサイトを得た。そして、これがSkillnote創業の根幹をなす哲学となった。

「シリコンサイクルと呼ばれる急速な技術変化の中で、企業の勝敗は、技術と人材によって決まることを痛感しました。結局のところ、製造業の競争力の源泉は人だということです。」(山川氏)

自動化やデジタル化がどんなに進んでも、それらをどう使い、活用するかは人の力にかかっている。「人材の成長と可能性こそが企業の真の競争力」だと山川氏は考えたのだ。これは製造業の話ではあるが、イノベーションの文脈でよく耳にするフレーズとも一致する。

「Skillnoteの本質的な目標は、製造業で働く人々の働き方そのものを変革することにあります。単に管理者がラクになるだけでなく、実際に働く人たちのモチベーションや前向きさを引き出したいんです。」(山川氏)

しかし、山川氏の考えとは裏腹に、Skillnoteの創業期は逆風の連続だった。2016年当時、多くの企業がまだオンプレミスや内製、もしくは紙・Excel文化で、SaaSソリューションを導入する潮流はなかった。製品をローンチしてから、実際に現場で本格的に使われるようになるまでに、実に4年もの歳月を要したことになる。

4年はスタートアップにとっては長い。別の事業にピボットする社もあれば、ある程度のところで手打ちをして、事業を売却してしまう社もあるだろう。しかし、山川氏らは「Skillnote」が持つ価値提案が市場にマッチすることを粘り強く信じ、その結果、突破することができた。

「興味深いのは、この数年で製造業のデジタル化に対する認識が劇的に変化したことです。コロナ明け以降、企業から『待ったなし』の相談が急増しています。人手不足、技能継承、生産性向上の必要性が、デジタル化を加速させる大きな推進力となっています。」(山川氏)

特に製造業界では、かつては「SaaSは導入できない」と言っていた企業の半数以上が、今や積極的にデジタルソリューションを探求している。この変化は、Skillnoteにとって、絶好の追い風となっている。

技術継承の課題——見えない危機への挑戦

日本の製造業が直面する最大の課題の一つが、技術継承の問題だ。いわゆる「2007年問題」と呼ばれた団塊世代の大量退職は、雇用延長という形で先送りされ、今現在も解決されていない。ベテラン技術者や技能者の暗黙知をいかに次世代に伝えるか。日本の製造業の競争力に直結する重大な課題だ。

山川氏は、多くの企業が抱える根本的な悩みを鋭く分析する。

「誰のどのスキルが会社にとって最も重要で、どこから手をつけるべきかわかっていません。一元化・可視化できていないからです。デジタルツールを技術継承に役立てる方法はさまざまですが、「Skillnote」を使えば、どの技術を継承すべきかがスキル単位で可視化でき、計画的にスキルを伝承するための仕組みづくりにも活用していただくことができます。」(山川氏)

Skillnote

継承すべき重要スキルを、データとプランニングによって明確化することが「Skillnote」のミッションだ。従来の属人的な技術継承モデルを根本から変革し、スキルの可視化、重み付け、計画的な継承を行う。これらは単なるデジタル化ではなく、企業における人材戦略の再設計と言える。

それぞれの人材の価値を再定義し、組織における個々の専門性の意味を根本から問い直す。スキルの可視化、重み付け、計画的な継承は、技術的な手法を超えて、組織における人材の戦略的配置を可能にする。「Skillnote」のユーザーが製造業にも広がる理由はここにあるわけだ。

未来への展望——社会的イノベーションとしての意義

「Skillnote」は現在、日本のほか、アメリカ、オランダ、イギリス、韓国、台湾、シンガポールなどで利用されている。山川氏によれば、まずは、日系企業の海外拠点を主なターゲットとしながら、常に世界最高水準を目指しているという。

「製造業には本当に国境がありません。日本でいいものだねと言われていても、例えば、製造業の強いドイツから世界を制覇するようなものが出てくる可能性は常にあるんです。ですから、常にグローバルを意識しながら、世界中に展開できることを前提にプロダクト開発やパートナーシップを進めています。」(山川氏)

Skillnoteは国内でもさまざまな企業と協業関係にある。2023年には富士通と資本業務提携を結んだ。Skillnoteと富士通は2021年、両社に川崎重工やSAPジャパンを加えた4社での製造業のDXを支援するプラットフォームサービス提供に向けた協業検討を発表していた。

「富士通さんとの提携は、単なる資金調達や販路拡大以上のことを目指しています。参加しているパートナー各社が持つ独自の強みを相互に活用し、より大きな社会的価値を創造するという戦略的意図があります。

このほかにも、機械要素部品大手のTHK、ERPパッケージ世界トップのSAPとも業務提携を締結しています。1社でできることには限りがあります。パートナーと力を合わせることで、製造業における大きな課題解決につながると考えています。」(山川氏)

さらに、山川氏は、2024年には製造業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を促進するサービスを提供する組織「一般社団法人 製造DX協会」の立ち上げに参画し理事に就任した。自社だけではなく、業界全体のDXに他の起業家らとともに取り組む計画だ。

スタートアップがイグジットを目指すのは宿命とも言えるが、山川氏はIPOを目指しているものの、ゴールとは考えていない。それはあくまでビジョンを実現するための通過点で、今のところ、「まだSkillnoteでやりたいことの10%程度しか実現できていない」と語った。

「今後は、製造業のスキルデータを活用した周辺領域へのサービス拡大を検討しています。人材育成、スキル管理、人員配置などの領域で、さらなるソリューション提供を目指せると思います。最終的には、製造業をもっと人が集まる、かっこいい産業にしたいと思っています。

 最近では、製造業に就職した若手社員が数年後、早期に転職するケースを多く目にするようになりました。また地方の工場では、人材を採用することが難しくなっているという声を頻繁に聞くようになりました。製造業が魅力的に映らなくなっているのかもしれません。確かに、製造業は地味でキツイ現場の印象を持たれることもあり、例えばITやコンサルティングといった業界の方が華やかに見えるかもしれません。

 しかし、製造業は今、大きな変革の真っただ中にあります。製造業には、日本で1,000万人近くが働く強力な現場がありますが、デジタル技術の適用もどんどん進んでおり、大きなアップデートがなされようとしています。

 若い世代の中には、デジタル化やIoT、AIとの融合が進み始めた製造業をイノベーションを起こすためのプラットフォームとして捉え、こうした新しい技術を学び、活用するチャンスがある分野としてかっこいいと感じる大学生や若手社員も徐々に増えてきています。日本の基幹産業である製造業を、より魅力的で革新的な産業に変革していきたいと思います。

 Skillnoteで最も大切にしているのは「誠実さ」です。社会、顧客、製品、チーム、仕事に対するまっすぐな姿勢を、自身と社員の行動指針としています。リスクを取って一緒に挑戦してくれている社員へ感謝し、会社とともに社員が成長できる環境づくりに全力を注いでいます。」(山川氏)

山川氏が言っていた「製造業の競争力の源泉は人」という言葉は、そのままSkillnoteの競争力にも当てはまる。ましてや、Skillnoteはスタートアップであるがゆえに、個々の社員の成長と会社の成長は不可分なわけだ。

山川氏と彼の仲間が描く未来は、製造業の現場から、イノベーションと人間性が輝く舞台へと昇華させる壮大な物語。Skillnoteは技術と人間の可能性を融合させ、産業の本質的な価値を再定義する挑戦を続けている。

執筆: 池田 将
撮影: 森田 剛一
編集: 佐々木 絵美 / 三嶋 かよ

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